おじいちゃんの入院

僕には祖父がいなかった。父方の祖父も母方の祖父も戦争で亡くなっていたからだ。だから我が家ではおじいちゃんというと僕の父のことをさす。僕に娘が出来たときから自然にそうなった。日本の家庭ではなぜか、一番幼い者の視点に立ってお互いを呼び合う。これは弱いものを慈しむ日本の良き風習から来ていると、僕は勝手に考えているのだがそれはさておき…。父が入院することになった。これまで母は何度か入院したことがあるが、父は80才を過ぎて初めての経験である。しかも緊急入院である。ここしばらく体調が優れなかったが、週一回は町内のかかり付けの医院に通院していたし、好物の晩酌は欠かしたことがないので、今度は少し離れた街にある総合病院に行って来ると聞いてもそれほど気にしていなかった。それが診察を受けて、その場で即入院を告げられたというので驚いた。母が入院するときは、あらかじめ全て自分で準備を済ませていたので僕達がすることは送迎だけだったのだが、今度は母は父に付き添ってもう病院にいる。僕と妻は急ぎ実家に向い、あれやこれやと押入れやタンスを引っかきまわした。「印鑑とお金さえ持ってきてくれたら後は適当でいいから」というのが母からの連絡だったのだが、確かに、抜かっていた着替えも日用品も近くの○ニクロや百均ショップで簡単に揃えられた。せめて役立つところも見せねばと、僕は入院にあたっての誓約書に印を押す前に、必要以上に慎重に眼を通した。父は絶対安静を必要としたものの手術の必要はなく、2週間後に無事に退院した。